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【水辺の挑戦者たち 第2回】渡部敏樹さん

2017.07.18
水辺の挑戦者たち

自然再生センターに縁のある、中海・宍道湖に向き合って暮らす方々を紹介していく<水辺の挑戦者たち>第2回は、センターの副理事も務めていただいている渡部敏樹(わたなべ・としき)さんにお話を伺いました。

◆環境に優しい土づくりに挑戦し続ける74歳

地元・境港(鳥取県)で自然農法の試験農場<渡部農園>を運営している渡部さんは、一年を通して、その多くの時間を土と向き合って過ごされています。野菜や果物など、様々な種類の作物を実験的に育て、自然環境と人に優しい土壌づくりを研究を独自の手法で追及するかたわらで、県内外から農場を視察に訪れる農家の方々への対応や、レンタル農園の利用者のサポートなどをこなす、アクティブな74歳(!)。昔のキレイで楽しかった頃の中海を知る、貴重な水辺の人でもあります。今回は、活動フィールドとなっている中海、農場、そして、センターと共同で進めているオゴノリを使った海藻肥料を製造する現場などにご案内いただきながら、渡部さんの活動について教えていただきました。

◆海藻がとりもったセンターとの出逢い

渡部さんと待ち合わせたのは、大根島(島根県松江市)のとある港。波止場に現れた渡部さんは、なにやら長い棒のようなものを持っていました。4~5mほどの竹竿のようなそれは、小柄な渡部さんがかつぐととても長く見えます。挨拶もそこそこに「それはなんですか?」と尋ねると、「これは、海藻を採取する道具ですよ」と教えていただきました。「とりあえず、藻場に行ってみましょう」と渡部さん。藻場というのは、中海のあちこちに点在する、オゴノリやアオスジノリなどが繁茂する場所のことです。
渡部さんとセンターの関係を語る上で欠かせないのが、この中海に育つ海藻たち。特にオゴノリと呼ばれる紅藻の一種は、刺身のつまに使われたり、同じ系統の天草などと共に寒天の材料になることで有名です。そのオゴノリを農作物の栽培に活用する取り組みの過程で、センターと渡部さんの出逢いがありました。
生き物が暮らす場所として、海藻が繁茂する藻場は水辺においてとても大切な場所。ですが、水の富栄養化などが進むと、藻が育ち過ぎてしまい、放置しておくと枯死し、腐ってヘドロ化してしまいます。昔の中海では、この海藻を採取して、先ほど紹介したような寒天に加工したりすることで適度なバランスを維持できていたのですが、時代の変化とともに海藻の需要は激減しました。その結果、水質に悪影響を及ぼすほどの藻が繁殖するようになりました。「これはなんとかしなければ」と立ち上がったのが、渡部さんと自然再生センターでした。平成23年頃のことです。

渡部さんとセンターが、島根・鳥取両県の協力を得てスタートさせたのは、海藻をただ採取するだけではなく、それを肥料として活用するための研究事業でした。その昔、オゴノリなどの海藻は、中海周辺の農地ではごく普通に肥料として利用されていたそうです。しかし、安価で効果の高い科学肥料が普及しはじめると、海藻を肥料とする農家は激減してしまい、そのことも藻の大量繁殖を許す原因となったのです。人の手を入れないと良好な状態を維持できない自然の一例ですね。

◆目指すのは「循環型サイクル」。しかし、一方で

地元の漁師さんたちの協力を得ながら、定期的に中海から採取した海藻は、毎回2トン近い量になります。これは大量の水分を含んでいるため。乾燥させるとその半分くらいの重さになるそうです。その海藻を渡部さんの農場に運び、直接巻いたり、加工をほどこして土に混ぜたり、さまざまな形でその利用方法を実証研究した結果、その有効性が認められ、現在は中海周辺の多くの農家さんが、化学肥料に頼らない、中海の資源を再利用した自然農法を採りいれ始めています。渡部さんとセンターが目指す「循環型サイクル」の姿が形になりつつあります。

現在、渡部さんとセンターは、海藻をそのまま納めるだけでなく、就労支援施設(社会福祉法人養和会・F&Y境港)と提携し、乾燥し加工を施した粉末肥料の製造・販売も行っています。毎年、7月~12月の間に海藻を採取し製品化するのですが、近年は購入者が増えて、翌年までの在庫確保に苦労するほどです。「この前も、400kgの大口注文が入ったんですよ」と笑う渡部さん。

一方で、この事業を進めるようになって、中海にも変化がありました。予測通り、水質が改善されることも解ったのですが、もうひとつ、見えてきたことがありました。「目に見えて、藻場で暮らす生き物の数が減ってきたんですよね」と渡部さんは言います。当前ながら、それはセンターや渡部さんが望むものではありませんでした。藻を大量に採取しすぎたためなのか、それとも別の理由があるのか。今、渡部さんとセンターは、新たに平成29年度から、その謎を探るべく、次の事業展開を始めています。

◆なぜ銀行マンから農地研究者へ?

陸に上がり、渡部さんの農園を案内いただきながら、その経歴もうかがいました。なんと、渡部さん、土と向き合う前は地元銀行の銀行マンだったそうです。平成の初めころに沸き起こったブームを背景に、銀行が支援する地元の自然食品の会社への出向を命ぜられた渡部さん。平成5年頃、同社で開発したEM菌が爆発的なヒットとなり、その過程で自然農法に触れたのが、渡部さんの土との出逢いだったそうです。研究熱心なあまり、自ら農地を手に入れての研究三昧。農場への見学者も、当時は月に5~6組はあったそうですから、休む暇もなかったようです。怒涛の20年を振り返って、「まさかこういう世界に没頭することになるなんて、若い頃は思ってもみませんでしたよ」と苦笑いしながらも、目をキラキラさせて土の話を語る渡部さん。現在は、見学者の数も昔ほど多くはないそうですが、「昔に比べて本気の人が多い」のだそう。「最近は、農場の会員にも若い人が増えてきました。それが嬉しいですね」と話してくれました。


◆もう一度、中海が注目されるような恵みを復活させたい

2015年の秋、嬉しい出来事がありました。土壌の豊かさを競うイベントとして開催された「世界土壌微生物オリンピック」にエントリーした渡部さんの畑の土が、専門家の分析の結果、高い評価を得たのです。入賞とまではいきませんでしたが、参加総数の上位15%内にランクインしていたのです。「本来それほど恵まれた土壌環境とはいえないこの地域で、ここまで質の高い土づくりが出来たのは、オゴノリなどを活用した土壌改良の結果だと言えますね」と渡部さん。自分が取り組んできたことが、数値として評価されたことは、今後の活動の励みになると語ってくれました。
そして前述したように、水質を改善する目的もあって進めてきたオゴノリ採りで、予想に反して生き物の姿が減ってきている謎の解明も、渡部さんのこれからの課題。それら調査活動を、島根・鳥取両県と協働しながら、自然再生センターの事業である「藻ガールプロジェクト」の要として、日々、水の上から土の上まで、忙しく駆け回っている渡部さん。たくさんの生き物たちと共存しながら、水辺の恵みから美味しい野菜が収獲できる未来は、少しずつですが、間違いなく近づいてきているようです。(取材・撮影・文:桑谷)

◆耳より情報◆
海藻肥料を販売しています。カリュウムとミネラルを豊富に含み、地力を上げる最高の資材として、中海の海藻(オゴノリ)を使っています。作物が育つ土を作る(土壌改良の)ための肥料です。


渡部さんの活動に興味を持たれた方がおられましたら、是非、自然再生センター事務局(0852-21-4882)までご一報いただければお繋ぎいたしますので、お気軽にお問い合わせください。

◆渡部敏樹さんプロフィール◆
1942年8月、境港市(鳥取県)生まれ。地銀・銀行マンから自然食品製造・販売会社の営業へ。定年後、<渡部農園>を営みながら、公益財団法人自然農法国際研究開発センターの賛助会員として中海の再生と循環型の自然農法の普及につとめている。センターの活動では、子どもたちの環境学習などにもお力添えいただいています。

関連するサイト:
公益財団法人 自然農法国際研究開発センター:http://www.infrc.or.jp/
EM研究所:http://www.emlabo.co.jp/
自然農法園 さかい夢の浜(「みな~とでブログ」内):http://blog.canpan.info/shiminkatudou/category_26/1
伯州綿連絡協議会:https://www.facebook.com/hakushumenrenrakukyou/posts/914385025265181

カテゴリー:水辺の挑戦者たち
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